目白大学経営学部 准教授 髙辻 成彦 様
2026.2
【はじめに】
今回は、上場企業での広報・IR担当のご経験に加え、セルサイドアナリストとして長年、上場企業の企業価値評価に携わり、現在は上場企業の社外取締役も務められるほか、大学教員として論文・著作を執筆されるなど、IRを多角的な立場から実務・研究の両面でご経験されている目白大学経営学部准教授の髙辻成彦先生にお話を伺いました。
髙辻成彦先生は、著書『IR戦略の実務』、『企業価値評価の教科書』、『資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンス』の企業財務3部作を通じて、IRの基礎のほか、企業価値評価の基礎となる資本コスト、前2作にあるIRや資本コストを踏まえたコーポレートガバナンスの重要性を体系的に解説されています。
今回は、2025年6月に出版された『資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンス』を中心に、資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンスの基本的な考え方について、分かりやすく解説していただきました。
今回は、上場企業での広報・IR担当のご経験に加え、セルサイドアナリストとして長年、上場企業の企業価値評価に携わり、現在は上場企業の社外取締役も務められるほか、大学教員として論文・著作を執筆されるなど、IRを多角的な立場から実務・研究の両面でご経験されている目白大学経営学部准教授の髙辻成彦先生にお話を伺いました。
髙辻成彦先生は、著書『IR戦略の実務』、『企業価値評価の教科書』、『資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンス』の企業財務3部作を通じて、IRの基礎のほか、企業価値評価の基礎となる資本コスト、前2作にあるIRや資本コストを踏まえたコーポレートガバナンスの重要性を体系的に解説されています。
今回は、2025年6月に出版された『資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンス』を中心に、資本コストや株価を意識したコーポレートガバナンスの基本的な考え方について、分かりやすく解説していただきました。
これからのコーポレートガバナンスについて
髙辻先生は、2023年3月の東京証券取引所(以下、東証)による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請は、各上場企業に自社の資本コストを把握する必要性を認識させた点で大きな影響を及ぼしたと考えています。 「資本コストや企業価値評価は、機関投資家やアナリストにとっては、実務上ごく常識的な知識です。しかし、取材を受ける上場企業にとっては、そうではありません。実務上の本格的な活用は、まだこれからではないかと思います。」 髙辻先生は上場企業の広報・IR担当やアナリスト経験を経て、現在は社外取締役として上場企業の経営実務に関わっています。 「私が過去に社外取締役を務めた上場企業では、自社の資本コストの数値を開示して頂きました。資本コスト経営を導入する上で大事なことは、先ず、管理部門の担当者が資本コストを説明できるレベルまで理解していなければ、取締役会に対して導入の説明・提示ができないということです。また、取締役も導入の必要性を理解しなければ、導入が進みません。私が社外取締役を務めた上場企業では、取締役や管理部門向けに資本コストに関する社内勉強会を実施した上で、資本コスト経営を導入して頂きました。」 コーポレートガバナンスの考え方や構造の変化について、髙辻先生はこう述べておられます。 「従来はコーポレートガバナンスと言えば、法律分野のイメージがありました。しかし、昨今の制度改正の流れで企業財務(ファイナンス)の考え方が加味され、IRや資本コストの理解が必要になってきています。また、コーポレートガバナンスに関連した制度改正が頻繁に行われていることから、そのキャッチアップも必要になっています。」資本コストの理解と浸透について
髙辻先生は第6章で、「企業価値向上のための超えるべき3つの障害」について、日本企業に特有の障害について触れています。 「日本の上場企業では、広報・IR担当者など実務担当者レベルでは問題意識を持っているものの、その考え方が取締役会レベルまでには展開されていないのではないかと感じています。日々、機関投資家やアナリストと接している担当者であれば、資本コストなど外部の投資家の考え方を理解している方が多いかと思います。しかし、その考え方が社内で必ずしも取り入れられているとは限らず、社内外の間で一定の温度差が生じているケースも少なくないのではないかと感じています。
コーポレートガバナンス・コードが導入される前は、『業績さえ上げていればIRは不要である』、『株価は市場が決めるものである』と考える上場企業が存在していたと認識しています。株価や時価総額の向上に意識的に取り組む上場企業は、今後増えていく段階だと考えています。」 資本コストを意識した経営について、具体的に、取締役はどのような取り組みをすべきでしょうか? 「先ず重要なのは、自社の資本コストの数値をファイナンスの考え方に基づいて正しく把握することです。そして、その数値をハードルレートとして設定し、投資案件について事前評価をきちんと行うことが必要です。さらに、期が終わる際には、業績や時価総額、株価について事後評価を行い、その結果を踏まえて改善策を講じていくことが重要になります。外部の投資家から見れば、当然の取り組みに思えるかもしれませんが、実践することは決して容易ではありません。事後評価を行うということは、場合によっては投資判断の失敗を認めることにもつながるからです。
重要なことは、東証が示している『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』の要請内容そのものだと思います。一度は実施することはできても、継続的にこれを行っていくことは決して容易ではありません。」 「資本コストや株価を意識した経営」について、言葉としては定着しているものの、上場企業の経営には浸透しきれていないのは、どのような背景があるのでしょうか? 「資本コストという言葉自体は、かなり定着したと思います。ただ、それが上場企業の経営に浸透するのは、これからの段階ではないでしょうか。東証の要請内容への対応自体は、多くの上場企業が既に何らかの形で実施しています。しかし、それが本当に経営に落とし込まれているのかどうかは、外部からはなかなか見えにくい部分があります。そのため、上場企業としては、できるだけ自社の取り組み状況を情報開示していくことが重要だと思います。
実際に経営の中で実践できているかどうかは、実務上の必要性に迫られているかが関係しています。
例えば、M&Aを頻繁に行っている企業であれば、日頃から投資判断の際に買収対象企業と自社の資本コストの数値を比較・検証することが必要になりますので、自然と資本コストの考え方が実務に組み込まれていきます。一方で、そうした投資判断の機会が少ない上場企業の場合、東証の要請に対応しているものの、まだ実務では活用していないケースもあると思います。」 髙辻先生が関わってきた企業の中で、資本コスト経営やガバナンス改革に成功している企業について教えてください。 「本書でも触れていますが、私が関わってきた企業の中で、コーポレートガバナンスが機能していると感じた上場企業は、ナブテスコです。同社は、旧・帝人製機と旧・ナブコが経営統合して誕生した機械メーカーですが、経営統合後の人事制度では、統合前の経歴を人事情報に記載しないようにするなど、社内で派閥が生まれない工夫をしています。こうした取り組みは、非常に珍しい事例だと思います。
また、同社の顧客は大手企業で優良企業が多く、顧客から常に高い要求水準を求められる環境にあります。日頃から顧客に鍛えられている環境にあることも、恒常的に改善を推し進める経営風土の醸成に寄与しています。」
<Profile>
髙辻 成彦
