2025.12
本日は、東京証券取引所上場部にて、上場会社の企業価値向上に向けた支援を行う石川様にお話を伺います。IR実務未経験の状態からCIRP資格を取得された背景や、資本市場の運営側という視点から見た資格の意義について深掘りします。
<Profile>
株式会社東京証券取引所 上場部 上場会社サポートグループ
石川 実乃里 様
新卒で日本取引所グループに入社。当初2年間はシステム運用保守業務に従事。2022年に上場部「制度推進・管理グループ」へ異動し、上場維持基準の審査や上場会社のコーポレートアクションに関する情報処理を3年間担当。現在は「上場会社サポートグループ」にて、東証の要請に対する理解促進やIR活動の支援、企業価値向上に向けた施策の企画・運営を行っている。※2025年12月取材当時
――まず、IRプランナー(CIRP)資格を受験されたきっかけや背景についてお聞かせください。
私のキャリアのスタートはシステムの運用保守であり、入所後2年間はIR業務とは、実は縁遠い環境にいました。2022年に現在の上場部へ異動しましたが、当初担当していたのは上場維持基準の審査や、上場維持基準の適合に向けた計画書の開示確認といった業務です。開示の確認といっても、あくまで「ルールに適合しているか」を確認する業務であり、投資家に向けてどのように情報を発信すべきかというIRの視点とは異なるものでした。 その後、現在所属している上場会社サポートグループに配属されました。ここは審査をするのではなく、上場会社様と一緒になって課題解決に伴走するグループです。しかし、当時の私自身にはIRに関する知識が全くない状態でした。上場会社様からは「IRをどう学べばいいか分からない」「リソースが足りない」といった切実な悩みが寄せられます。そのような状況下で、推進する立場の自分が知識を持っていなければ適切なサポートはできないと痛感しました。 受験の直接的なきっかけは、上長が既にこの資格を保有しており、取得を勧められたことです。IR業界には体系的な「教科書」となるものがまだ少ない中で、この資格であれば基礎的な知識を網羅的に習得でき、かつ対外的に知識レベルを証明できると考え、受験を決意しました。
――ご自身のキャリアや現在の立場において、この資格にどのような意味がありましたか。
私たちは、あくまでIRを「教える」立場ではなく、お悩みを聞き、適切な事例や考え方を紹介してサポートする立場です。そのため、上場会社様がどのような実務を行い、どのような苦労をされているのか、その背景にある知識を理解していなければ、相談に乗ることすらできません。 資格取得を通じて、IRに求められる知見を体系的に学ぶことは、上場会社様と同じ目線に立ち、対話の土台を作るために不可欠なプロセスだと捉えていました。上場会社様に寄り添い、共に企業価値向上を目指すための「共通言語」を獲得する意味が大きかったです。――IRプランナー講座受講において特に苦労された点や難しかった点はありましたか。
最も苦労したのは、試験範囲の広さと内容の専門性です。市場や金融の一般的な知識はもちろんのこと、特に財務に関する計算問題には苦戦しました。東証として「資本コストや株価を意識した経営」をお願いする立場にありますが、実際に自分で資本コストやPBRを計算してみると、その変数の扱いなどが非常に複雑で、実務担当者様のご苦労を身を持って体感しました。 また、この試験には過去問が公開されていないという点もハードルでした。しかし、これは逆に良い面でもあったと感じています。過去問があれば「試験対策」としての学習に偏ってしまいますが、それがないため、テキストをしっかりと読み込み、講義を聞き、自分で手を動かして計算するという本質的な学習が求められました。結果として、単なる暗記ではない、身についた知識が得られたと思います。
――試験受験前には、対策講座を受講されました。講座はどのように活用されたのですか。
私は原則として講義にリアル会場で参加したおかげもあり、かなり集中して受講しました。それに加えて、学習の効率化のためにChatGPT等のAIツールを活用しました。テキストの内容を読み込ませて4択問題を作成させ、それを解くことでインプットとアウトプットのサイクルを早めるなどの工夫もしました。 また、講座を通して、試験対策以外にも気づきとなったのは、第三者的な視点から東証の立ち位置を再認識できたことです。普段、中にいると気づきにくいのですが、投資家や市場関係者の視点から見たときに、東証の要請が企業にどのような影響を与えているのか、またIR活動全体の中で東証がどう位置づけられているのかを客観的に学ぶことができました。――実務やキャリアにおいて、どのように役立っていると感じますか?
最大の成果は、自分自身への自信と、対外的な信頼の獲得です。実務経験がない中でも、「最低限必要とされるIRの基礎知識は持っている」という自負が生まれ、上場会社様と対面する際も自信を持って話せるようになりました。また、名刺に資格を記載することで、若手であっても「この人は基礎知識がある」という安心感を相手に与えられ、信頼関係の構築に繋がりうるのではないかと考えています。 実務面では、議論の「解像度」が上がりました。例えば、資本コストに関する相談を受けた際、以前であれば今と比較すると一般的な話に留まる部分もあったかもしれません。しかし、自ら計算プロセスを学んだことで、「計算式のどの変数の設定で悩まれているのか」といった詳細な部分まで理解が及ぶようになりました。これにより、より具体的で相手に寄り添った対話が可能になったと感じています。――今後、CIRP資格をどのように活かしていきたいですか?
学んだ知識を活かして、東証だからこそできる、より質の高い情報提供や企画を行っていきたいです。例えば、人的資本経営やPBR改善といったテーマについて、単に要請を伝えるだけでなく、投資家が何を求めているのか、他社がどのような工夫をしているのかを、CIRPで学んだ体系的な知識をベースに整理し、セミナーや事例集といった形で還元していきたいと考えています。 また、人的資本と人件費の関係性など、実務においても判断が難しいテーマについても、講座で学んだ基礎があるからこそ、表面的な「開示の充実」だけでなく、コストと投資の両面から冷静に議論できるようになりました。こうした深い視点を持って、上場会社様の企業価値向上に伴走していきたいです。――これからCIRP資格を持つ人材はどのように求められると感じますか?
現在、投資家のエンゲージメント活動の活発化や公的機関からの要請の増加などを背景に、IRへの注目度は高まっています。その一方で、IR人材は不足しており、転職市場での獲得も難しいため、上場会社様内での育成が急務となってくるかと思います。 私自身がそうであったように、営業や広報、あるいは全く異なる部署から、ある日突然IR部門に配属されるケースも増えているように感じます。そうした「新人・未経験者」が最初に学ぶ土台として、この資格は最適だと思います。 IR実務は非常に多岐にわたりますが、まずはこの資格を通じてIRの全体像と基礎知識を網羅的にインプットすることで、その後の実務の吸収力が変わってきます。これからIRを担う方々、特に新任担当者の方にとって、CIRPは自身のキャリアを支える強力な武器になると確信しています。 — 石川様、本日は貴重なお話をありがとうございました。